「もー、恋歌ちゃんったら心次に甘すぎ。最低って思ったんならそう言いなよ」


さっきとは打って変わって冗談交じりの口調の薪坂さんに、ちょっと安心する。


「んー……、卿渓さん最低ー」


その雰囲気に乗って、ふざけ半分で言ってみた。


軽いショックを受けたような表情で、また私の手からグラスを取り上げて、テーブルに置いた。


頭にはてなを浮かべていると、急に腕を引っ張られた。


「きゃっ」


「おいっ」


「ちょ…」


3人の声が同時に重なって、みんなの言葉が消えたときには、私の背中は暖かくなった。


「そんなこと言ってっと、襲っちゃうよ?」


私にしか聞こえないような声で囁いて、ふっと耳に息を吹きかけられた。


「っ……」


きっと真っ赤になってるであろう私からそっと離れて、彼は意地悪く笑った。


「心次!!お前、俺の恋歌ちゃんに何したんだよ!!」


「別に。お前らには関係ねぇ」


「関係ねぇことねぇだろーが!!おい、心次!!」


得意気な顔をして部屋を出て行こうとする卿渓さんに、怒ったような形相の薪坂さんが追いかけていく。


そんな光景を呆然としながら眺めるしかない私は、ポツンと立っていた。