-----------------------side早苗


心次とは、1年のときにクラスが同じだったこともあって、普通に顔見知りではあった。


お互い最初はタイプじゃなくて、むしろ嫌い合ってたくらい。


そんな私たちが付き合うようになったのは、なんとも小さなきっかけで。


「おい、西川。……これ」


「なにそれ」


1年も中盤に差し掛かって、クラスの雰囲気も出来上がりつつある時期。


心次が1通の手紙を私に差し出した。


「お、俺からじゃねぇぞ。ほら、あいつが…」


当時サッカー部に所属していた心次は、見た目も中身もチャラくて、チャラい女子には人気があったけど、私には苦手なタイプだった。


そんな心次はもちろん部活では先輩に可愛がられてて、同級生とも仲が良くて、休み時間にはだいたい心次の机のまわりにサッカー部員が集まる。


心次が持っていたのは、そのグループの中の一人で、私に好意を寄せているらしいと噂のあった男子からの手紙らしい。


「なんであんたが…」


「知らねぇよ。あいつが渡してくれっていうから。…ん」


ちょっと距離を置いて手を精一杯伸ばしながら手紙を私に差し出す。


「……」


「確かに渡したからなっ」


言うや否や心次は走るように教室を出て行った。


白い封筒には、″西川早苗さんへ″と書いてあるだけ。


…自分の名前くらい書いとけって。