バスに乗り込んで、奥の席に座る。
……このシチュエーション、前にもあった。
卿渓さんとのデート、バス移動だったな……。
ふとそんなことを思い出す。
薪坂さんが窓際に座って、ちょっと距離を取って私も隣に座る。
「恋歌ちゃん、どこで降りるの?」
「あ…。公民館前です」
「じゃ、俺の方があとなんだ」
それだけ言うとまた黙ってしまう。
この沈黙が決して息苦しいものじゃないのが不思議。
バスの中には、私たちと学校帰りと思われる女の子が2人と、おじいさんが1人。
この時間はやっぱり人が少ない。
窓の外を見ている薪坂さんの横顔をそっと眺める。
キリっとした眉に、優しい目。
すっと通った鼻筋に、形のいい唇で、やっぱり端正な顔立ち。
あの3人も相当な美形だけど、薪坂さんからは優しさが溢れてる。
バス停に止まるたび、一人、また一人と降りていく。
出発してから4つ目のバス停で、バスの中には私たち二人だけになった。

