「ここ、だっけ?」
なんとなくの記憶を頼りに、薪坂さんが入院していた病室の前に立つ。
名前のプレートを見ても、薪坂さんの名前はもうなかった。
「すいません」
ナースステーションに声をかけて、聞いてみると今出てくると言われた。
「ありがとうございました」
最後の検診で、診察室にいるらしいので、受付前のソファに座る。
ボーっと診察室を眺めていると、ガチャと音を立てて開いたドアから、久しぶりに見る薪坂さんの顔が見えた。
なんだかハッとして、慌てて椅子から立ち上がる。
目をしっかり見開いて、先生に向かってお辞儀している薪坂さんに気づいてもらえるように見つめる。
「…お大事にどうぞ」
ナースステーションの前を通るとき、看護士さんが微笑みかけた。
それに軽く会釈を返して、私の前を通ろうとしたとき。
「あれ?……恋歌ちゃん」
クイッと小首を傾げて、私の顔を覗き込んだ彼は、優しく微笑んだ。

