バスが来て、1番奥の席に並んで座る。
卿渓さんが窓側に、私がその隣に。
バスには、私たちのほかに、おじいさんが2人前のほうに座ってるだけ。
バスに揺られながら、なんとなく黙り込む。
卿渓さんの「あ、あれ見て」という声につられて、窓の外を見る。
「あ……」
一瞬、私たちの目の前を通り過ぎたのは、まだ小学生くらいの男の子と女の子。
公園のベンチに座って、男の子が女の子の頬っぺたにかわいらしくキスをした。
私にとっては、とても衝撃的な光景だったけど、なんとなく心が温かくなった。
卿渓さんと目を見交わして、静かに微笑んだ。
不意に、卿渓さんの近づく気配がしたと思ったら、彼は私の頬にキスをした。
「え…」
多分、真っ赤になってるであろう私を見て、卿渓さんはクスっと笑う。
「恋歌ちゃん、純粋すぎない?」
耳元で、囁くように言われて、私はさらに真っ赤になる。
「ほら、降りるよ?」
気が付けば、バスはもう隣町のバス停に留まっていた。

