チリンチリンと自転車のベルが鳴り、振り向くとお巡りさんが険しい顔で走って来ていた。
やばっ、と声を漏らすのが早いか、直樹は瞬く間に停めてあったらしいバイクに跨がる。
いまいち状況についていけてない私のほうを向き、彼はにこりと微笑んだ。
「じゃあね、由良ちゃん」
由良ちゃん、なんて呼ばれたの何年ぶりだろう。
彼はペダルのようなものを蹴り、今度こそ去って行く。
『由良ちゃん』
頭の中でリフレインする声。
彼に、直樹にとっては他意なんてない。
私の名前が由良だから、由良ちゃんと呼んだだけ。
それでも、どうしようもなく胸が熱くなった。

