恋に落ちて



吸い込まれそうになる。
彼の瞳に映る私は、呆然と立ち尽くしていた。

どれくらいの時間、そうしていただろう。

数秒足らずだったかもしれない。
けれども、私には果てしない時間に感じた。



「何?」



彼が静かに微笑む。
澄んでいて、でも力強いしっかりした声。



「……紅い、」

「ん?」

「綺麗だね」

「何が?」

「血が」



なんでもないように言う私に、彼は目を見開く。
頭いっちゃってると思われたかもしれないと不安に思った。



「ありがと」



しかし、彼はまた静かに微笑んだ。

その表情に、胸が高鳴る。
体中の血が沸騰する。
頬が熱い。



「ポリさんにチクんないでよ?じゃあね」



彼はふっと踵を返して歩いて行く。
向かう先は停めてあるバイク。

私は何故か焦る。

何か言わなきゃと無意識に思って出た言葉は、



「待って!」