泣く泣く野口英世さんにさようならをして、大量のパンが入った袋をぶら下げて教室まで歩く。



「った!」



曲がり角に差し掛かったとき、人にぶつかった。

数歩とよろついた後謝ろうと顔を上げると、鬼藤君が私を見下ろしていた。

怒っている。
頭に浮かんだのは、最悪の二文字。



「あっ、あの、ごめんなさ―「大丈夫か?」…え?」



彼の声音は、驚くほど優しかった。



「悪い。」

「え、え、あの、こちらこそすみません」

「これ、教室までだろ?持ってく」

「あ、ありがとうございます…じゃなくて!」



鬼藤君は、さっきぶつかったときに落としてしまっていたらしいパンの袋を拾い上げた。

なんでこんなに優しいんだろう。

失礼だけど、逆に怖い。



「大丈夫ですから、気持ちだけ…って待ってください!」

「遠慮するんじゃねぇ。ほら、行くぞ」



あぁ、周りの視線が痛い。

感じたのはほんの少しの恐怖と気まずさと、大きな温もり。

鬼藤君は外見こそああだけど、本当はすごくいい人なのかもしれない。


私は彼の厚意に甘えることにして、大きな背中を見ながら教室まで行くのだった。