「心空」
スクイズボトルを飲みながら汗を拭いていると、黒さんが私の名前を呼んだ。
「はい!」
「お前、8番につけ。瑞穂とディフェンスの相手を交換するんだ」
「……はい」
「相手は一対一で仕掛けるのが得意なようだ。お前は内野の一対一で鍛えられてるんだ。相手の動きや癖を見抜く力がある」
「はい」
「瑞穂、お前は5番のディフェンスだ。スクリーンで味方を動かす傾向があるから、そこは注意。でかいお前の声で知らせてやるんだ。いいな」
「はい!」
瑞穂は力強く返事をした。
自分のディフェンスを変えられたら、悔しいものなのに。
そこを瑞穂に微塵も感じさせない、黒さんの言葉には頭が下がる。
黒さんはそういう監督なんだ。
選手の気持ちをよく理解している。

