最も怖いのは妄想だった。
自分が前を見つめて、進もうとしても「過去」が自分に襲い掛かる。
つまり、寝ているとき意外にも夢をみて
自分が受けた暴力、「虐待」されるシーンを何度も見せられる。
誰に?
叔父に?
神様に?
相手が誰だったのかは、いまだにあたいにも分からない。
ただ、ただ叔父に対して敵対心を燃やした。
復讐したい。
地獄に落としてやりたい。
そんな気持ちで一杯だった。
そして、何もやる気が起きなくなった。
何も手につかない。
イライラと焦燥感を募らせた。

・・・それが、PTSDの主な症状で。
寮で起きた事件は、ここから先の話。
寮の同じフロアに住む唯一の隣人、ハルにいろいろなことを盗聴された。
「集音機」というらしい。
壁にセットするだけで、隣の部屋の音を拾える機械だと言っていた。
本人がチーフに自白していた間違いない。
そもそも、集音機なんて存在すら知らなかった。
知っている人のほうが少ないと思うが、安いラブホテルなんかに
セットされていると知人から聞いた。

世の中には・・・「盗聴壁」という災いをもたらす人間がいることを
このとき初めて知らされた。
もしも、今ならハルの部屋に乗り込んでいって
往復ビンタくらい食らわせてやる勇気はあるが、
あのときの無気力なあたいには呼吸することですら
一日の仕事のように思えた。
そんな毎日が1年間続いた。