「これでもう、礼恩がケンタロウに告白することはないわね。」
「?!」
「ナミが怒るのよ、仕事4年も頑張ったのにご褒美がないって。
まぁ、もっとも欲しいご褒美は『管理栄養士』の資格だろうけどね。
だからせめて、恋愛くらい甘い汁吸いたいってきかないの。」
あたいの頭上に稲妻が落ちてきた。
そんな馬鹿な話ってない・・・
親切に助言するフリをして実は裏があるなんて・・・。
そんなこと、受け止めきれない。
あたいはコシムラさんを諦めきれずに
なかなか引き上げようとしなかった。

仕事ではイジメが激化し
夜、全く眠れなくなり、夢と現実の境界線が薄れていった。
いま・・・起きていることは現実なのか、夢なのか?
誰かに助けを求めたくても、誰もいない。
あたいは近所の精神病院へ通い始めた。
初めは町内にある精神科だった。
その病院は曜日ごとに医師が担当する病院で
あたいは月曜日の先生に初診を受けた。
その先生はあたいを威嚇するように見つめ、あまり話を聞かない。
カルテに適当に書き込み
あたいを探るように覗き込む。
あたいは余計に孤独感を募らせた。
痺れを切らし、転院を決意した。

インターネットで検索した結果
上野に相談を聞いてくれる機関をみつけた。
歩んだこともない道をひたすら歩き
とうとう道に迷う。
あたいはタクシーを捕まえて
住所と施設名を言った。
「途中で曲がり角を間違えましたね。」
運転手さんはいい人だった。
携帯電話で施設に電話をかけてくれて道順を尋ねていた。
あたいも、必死の思いだった。
すでに1時間の遅刻。
電話の先で人の声が聞こえた。

「もしもし」あたいの不安げな声が相手の声に重なった。
相談員と名乗るその人はあたいに病状の説明を求めた。
あたいの病名、今でこそ知られているが「PTSD]という病気は・・・
世にも恐ろしい発狂的な病気だった。