あの夜逃げから、どれくらいの時間が流れただろうか。
まだまだ暑い宮崎の夏。
あたい達は引き裂かれることなく
無事に両親と、そして叔父と共に暮らしていた。
母はどんなに殴られても蹴られても泣こうともしなかった。
ある種の「喪失感」かもしれない。
痛みを忘れてしまった感じだった。

不幸や苦労とは「感じるもの」ではないと思う。
積もり積もって「鈍ってくる」毎日の積み重ねのような感覚。
母が泣かなくなって
あたいは気がふれたように泣いた。
何が悲しくて
何をして欲しくて泣いたのか、
もう・・・憶えていない。
もしかしたら、何もして欲しくなかったかもしれない。
普通であって欲しかったと思う。

今から書くことは、けしてあってはならない
性犯罪である。

或る日・・・両親がいない昼下がり
あたいは蒸し暑い家の中でゴロゴロと過ごしていた。
姉がいない。
姉を探そう。
あたいは部屋を移動し、仏間の隣へ行った。
隣の部屋は障子がしまっていて
中に誰かがいる。
開けてみると、叔父が部屋の中央で横になっていた。
中の冷気が一気に流れ出てきた。
「障子を閉めて中に入れ」そう言った。
「今日は暑いな」そういう会話から始まった。
「礼恩、シャツを脱いでみろ。」そう言われた。