次の日、あたい達にも朝はやってきた。
なれない場所で仕方なく寝付いたあたいは
目に一杯目ヤニを溜めていた。
泣きながら眠りについたからだろうか。
あの日は夏休みだったはずだ。
・・・正直な話、夜逃げは幾度も
起きたことなので
冬の日もあれば、夏の日もあり・・・
記憶が危うい部分も多少あるが
確かに、あの日の夜逃げは
夏の日だった。

あたいが3歳から5歳くらいだった。
だから、姉は5歳から7歳だったことになる。
姉曰く、礼恩の記憶力は恐ろしい。
だって、そりゃ憶えるよ。
生涯で一番悲しかった時代の話。
これから、二度と起きない・・・
暴力も・・・
夜逃げも・・・
今からあたいの元へも星が降ってくる。
他の人の元へ降っていたように。
あたいの願いなんて
これから、幾らでも叶うじゃん。

そんな悲しい日々でもあたい達子供は
笑いながら過ごした。
無知だったから。
これから、どうなるのか?
どうやって生きていくのか?
父と母が離婚しても
どちらが、どちらにつくのか。
あたい達が従兄弟と遊んでいる間に
母は必死に悩んだらしい。

その悩んだ結果が翌朝にやってくる。
祖母がタクシーに乗ってやって来たのだ。
「味噌汁がうもねー(美味しくない)。
あんた達、帰ってこんね。」
第一声は地獄の回答だった。
祖母は何が何でもあたい達孫を
自分の元へ置いておきたいらしい。
両親が別れて
父と祖母と叔父・・・
この3人で暮らせばどんなことになるか
わかるよね。

「ヤサグレル」なんて可愛い言葉じゃ
おさまりきらないよ。
きっと、犯罪者になったよね。
あたいの一番幸せなはずの3歳~5歳までの
清らかで楽しいはずの3年間を返してよ!