学園祭が間近にせまった秋雨の日。
いつものように三人で昼休みをすごしてからA組を去ろうとしたとき、教室を出てすぐの廊下で待ち構えてた人影に呼び止められた。

「話がある」

恥じらう女の子だったら告白かな?ってわくわくできたのに。あきらかに敵意を向けてくる男の呼び出しって、罰ゲームじゃん。笑顔でかわそうとしたら無言で手首をつかまれてビビった。逃がしてくれる気はないみたい。
嫌々ながらもついて行けば、そこは人気の少ない階段で、天気のせいでじとっとしていた。

「なんの用ですか?もうすぐ昼休み終わっちゃうんだから手短にお願いします」

あおりでなく本気のお願いだ。俺ってマジメだから授業はちゃんと受けたい派なの。目の前の君もマジメそうじゃないか。ガタイがよくて、柔道部っぽい。これといって特徴のない短髪も濃い目の眉も男らしくていいね。憧れたりはしないけど。
柔道部君は、にらみをきかせたまま、ひっくい声で言った。

「お前は、遠野さんの何なんだ」

「……へっ?」

いま、遠野って言った?よくわかんなくて、ぽかんとしてしまう。

「答えろ。早く終わらせろと言ったのはお前だぞ」

「待ってよ。なんの話?」

「遠野さんの話だ」

「なんで」

「好きだからだ」

バカみたいにまっすぐな目。

「俺は遠野さんに告白しようと思っている」

「うえっ」

思わず妙な声が出てしまうくらいの悪寒に襲われて、全身に鳥肌が立った。
なに言ってんだ、コイツ。

「勘違いじゃない?ほんとに遠野が誰だかわかってて言ってる?」

「なぜ、そんな言い方をするんだ……?」

「だって、遠野だよ?あんなかわいくなくて棒みたいなのの、どこがいいの?」

「貴様、遠野さんほどの可憐な女性に対してそんな言い方があるか!」

「ひいぃっ!バカじゃないの!?」

可憐って!耐えられなくて自分の腕を抱きしめる。俺をこんなにもガタガタ震わせる発言をした柔道部君は、さらに怒って顔が真っ赤になった。

「遠野さんは、どうしてお前のような男の側にいるんだ!?」

「知らないよ!こっちだって迷惑してんだからね!」

「迷惑だと?」

俺を威嚇するために見開かれていた目が、スッと細くなる。

「なるほど、お前の気持ちはよく分かった。もういい。俺は遠野さんに告白する。要件は以上だ」

柔道部君は、勝手に怒って、勝手に行ってしまった。
いまの全部、俺に言う必要あった……?
おかしなヤツ。

「告白って、本気なのかな……」

遠野に恋愛感情?想像するだけで虫唾が走る。
あぁ、気分悪い。