あいりちゃんは今日も三人でお弁当を食べようと言ってくれた。あいりちゃんが望めば秋山は従うし、私もそうだ。傍から見れば、先週と何ら変わりない私たちに見えたに違いない。ひとつの机を囲んで昼食をとる、少しいびつな仲良し三人組。

とんでもない。

今までよりいっそう秋山はあいりちゃんに媚びる。すると、あいりちゃんは気を遣って、努めて明るく振る舞おうとする。その結果、悪気なく明かされる昨日の出来事に、秋山の手練手管を見せつけられて、聞き役に徹する私は内心はらわたが煮えくり返っていた。
そうやって、いろんな女の子をたぶらかしてきたのね。
それは一種の駆け引きなのかもしれない。自分の魅力や価値を分かっている計算高い女の子が相手であれば。あいりちゃんに対してのそれは、もはや質の悪い洗脳だ。

恋人の間に割って入る気まずさよりも怒りが先に立って、かえって私は平静でいられた。どうにかしてあいりちゃんを解放するよう説得しなければ。最近の秋山に対して煙に巻かれてばかりいたのは、傷ついて心乱されていたせいで、もともとは私の方が弁は立つ。惑わされずに冷静にいれば、言い負かされることはないはずだ。
脳内で言うべきことを理論立てて準備していた矢先、思わぬチャンスが訪れた。校内放送で、あいりちゃんに呼び出しがかかったのだ。また保健委員の仕事らしい。最後のミートボールを頬張って、あいりちゃんは慌てて教室を出て行った。

二人になって、空気が張り詰める。

「最低ね」

私が口火を切れば、秋山はそれを待ち構えていたかのようだった。

「ほんと、最低だよ。普通じゃないよねぇ。この年になって友情と恋愛の区別もつかないなんて。でも恋してるつもりでいる。おかしいよねぇ」

椅子の上に体育座りしてゆらゆらと揺れているその横顔は、飄々としていて、どこか薄ら寒いものを感じさせる。

「どういう意味?分かるように言いなさいよ……」

一度は剥き出しにしたものの、宛てを失くしてしまった怒りのしまいどころを探しあぐねていたら、周囲がざわつく気配がした。色めき立つ、この感じは、前にも一度あったような。
秋山が目を丸くして私の頭上を見上げている。振り向くと、子犬のようにとびきり愛らしい笑顔があった。

「こんにちは!隼君と、円香ちゃん。だよね?」