私は、もとより百瀬かなでというタレントを快く思っていなかった。少数派だって自覚はあるから、あえて口にしたことはなかったけれど。
だって、彼は人に媚びを売る天才だ。どことなく、ニコニコしていれば周りが自分の思い通りになると思っている秋山と似ている。だから進学先に王子がいると聞いても、私は浮かれるどころか迷惑だとすら思ったのだ。

そんな彼と、彼女が、双子の兄妹だった。

結果的に、あの時点での牽制は正解だった。このクラスには子どもっぽいいじめの気配があって、その矛先が彼女に向く可能性は大いにあったのだ。でも彼女が王子の妹であると周知されたことで、いじめのターゲットから彼女は完全に外された。全てを見越しての行動だったとしたら、なんて恐ろしい男だろう。そう思うと同時に、自分の価値を振りかざしてでも妹を守ろうとする人間らしさに、彼を見直しもした。

それから、彼女がクラスだけでなく学校中で特別な存在となったのは言うまでもない。彼女の周囲は、純粋な善意や、好奇心、はたまた下心であふれかえった。けれど私がそうだったように、近づこうとする誰もが彼女の持つ独特の雰囲気に飲まれ、なかなか踏みこめない。その欲求不満が、観察という形となって彼女を取り巻いている、というのが現状だ。

普通じゃない。でも、渦中の本人がなんにも気づかずマイペースで幸せそうなので、今のところ問題はない。
私が最も危険視しているのは、誰でもない、秋山だ。

すっかり女たらしになってしまったあの男が、王子の妹に食いつかないはずがない。案の定、最近やたらと目を輝かせてA組のあたりをうろつき始めたのだから、分かりやすいったらない。さいわい彼女は今、委員会の仕事で教室を離れることが多いから、鉢合わせせずに済んでいる。それでも、何も知らずに彼女を探す浅ましい姿が目に余って、今日はつい首をつっこんでしまった。
傷つくことは、分かりきっていたはずなのに。