さっきの目、冷たかったな。

自分の態度は棚に上げて、また密かに傷つく。可愛げのない女だって自覚はあるけれど、今更しおらしく振る舞うなんてできないし、したくもない。他人に媚びを売るような真似が、私は何より嫌いだから。じゃあ、なんであんな、女に媚びた男を好きなのかって聞かれたら、ぐうの音も出ないのだけれど。下手に幼い頃を知っているから、どうしても思い出がちらついて期待してしまう。あのころの隼くんは、もうどこにもいないのに。

ダメだ。教室の前なんて人目のある場所で言い合ってしまった手前、落ち込んでいる顔をしていたら周囲に誤解されてしまう。私の方が正しいのだから、平気な顔をしていないと。
気を紛らわすために本でも読もうと席に着いたら、クラスメイトの女の子が二人、声をかけてきた。

「遠野さん、さっき秋山君と仲良さそうにしゃべってたよね」

「知り合いなの?同じ中学だったとか?」

興味津々、輝く瞳がまぶしい。あの男は顔が良くて物腰が柔らかいから、こんなふうに恋に恋する乙女たちの格好の標的になりやすい。

「……ただの腐れ縁。仲が良いわけじゃないの」

苦笑いで必要最低限の事実だけを答える。これ以上の情報は彼女たちの好奇心を満たすだけじゃなく、もれなく失望もさせてしまう。
ごめんね、とこちらから話を打ち切ると、二人は残念そうに去っていった。彼女たちが、ちょっと羨ましい。夢をみていられるのは、幸せなことだから。

幼馴染みというものが、こんなにも業の深いものだと知っていたら、はじめから近づいたりしなかった。いくらいじめられて泣いていたって無視したし、慰めてあげることもしなかった。どんなに良心が痛んでも、今の私が抱える痛みに比べたら、そんなのどうってことないって、あの頃の私に教えてあげたい。