赤ちゃんが出てくるまでまだ時間がかかるから、親族控室で待つように言われた。テレビが置いてある小さな個室。二人掛けのソファにならんで座る。
あらためて見ると私たち、ひどい格好だ。駿河くんはスーツがしわだらけだし、私はブラウスのボタンを掛け違えてる。こっそりとボタンを留めなおしてたら、私の両手が駿河くんの片手にすっぽりと捕まってしまった。
至近距離でバチっと目が合う。

「な、なに?」

「秋山君のことは、どうしたのかなと思って」

「あっ……それは……」

いろんなことがありすぎて、頭も心も追いついてなかった。
赤くなった目元に胸が痛む。駿河くんと両思いだったなんて信じられないけど、あんなに泣いてるところを見てしまったら、信じるしかなくて。駿河くんを不安にさせちゃってたのなら、ちゃんと説明して誤解をとかなきゃ。

「隼くんとは、友だちに戻った……っていうのも、おかしいのかな。ちゃんとした恋人にはなれてなかったみたいだから」

「両思いだから付き合ったんじゃなかったの?」

「そうなんだけど、好きの種類が違ってたっていうか。隼くんの気持ちに答えられなかったんだ……私はずっと駿河くんが好きだったから」

隼くんを傷つけてしまった失敗を繰り返さないように、駿河くんには正直でいたい。まっすぐに見つめたら、ぎゅっと抱きしめられた。

「……彼を連れて来られたとき、この世の終わりだと思ったんだよ。ネックレスつけてるの見る度に、いっそ死んでしまいたくなるほどつらかった。もう二度とあんな思いしたくない」

駿河くんが私の肩にあごを乗せて、すりすりと頬ずりしてくる。

「ごめんね。でも、隼くんと一緒にいて気づけたことがたくさんあるの。とっても感謝してるし、大切な友だちだから、隼くんのこと悪く思わないで」

私も頬ずりを返してお願いすると、体が離れて、下を向けないように両手で頬を固定された。

「許すかどうかは、秋山君があいちゃんにどこまで手を出してたかで決めるよ。ねぇ、さっきはベッドで服を脱いで何をしようとしてたの?どこを触られた?キスはしたの?答えて」

恐いと思ってた強い瞳。これは、怒ってるんじゃなくて、悲しかったのかもしれない。駿河くんに他の素敵な恋人がいるんだって思ったときの私と同じように。

「大丈夫だよ。恋人同士でしかできないことは、何もしてないよ。駿河くんとしかしたくない」

安心してほしくてにっこり笑ってみたのに。

「……あんまり軽々しくそういうこと言わないで」

って、もっとけわしい顔にさせちゃった。言葉選びを間違えたみたいだから、言い直す。

「駿河くんになら、どんなことされても許せるよ」

それなのに、駿河くんはとうとう顔を背けてしまった。

「もう、本当に、何年我慢してきたと思ってるの」

ここが病院でよかった、ってため息を聞きながら、私はとても気になった。