夜、水音に目が覚める。


気になって、廊下に出ると2階の洗面台が明るくなっている。
それを見て、ああ、と納得する。

今日は夕飯を食べてから春兎と羽夏は仕事の都合で出掛けていない。




いるのはアイツだけだ。


踵を返そうとして、微かに届く小さな声。


泣き声…………、のように聞こえた。




ぱしゃりぱしゃりと響く水音の合間に、微かだけれど。






「……………っっ」


「何してるの」

思った以上に冷たい感情のない声に、自分でも驚いた。
でもそれ以上に相良すなおは驚いたみたいで、びくりと細い肩を震わせて青い顔を振り向かせた。


青白い顔が、苦しそうに歪まれて、目元だけ赤くて泣いていたのがすぐに分かった。


「吐いてたの」


相変わらず、声に温度は加わらない。
いや、更に冷えて追い打ちをかけているみたいだった。

嘔吐していたのなら、少なからず体調は万全ではないのだろう。


「ご、ごめ…なさ…っ」

相良はどうしたらいいのか分からないというように、怯えて視線を慌ただしく動かすが、オレが居なくならないと分かると、絞り出すように謝罪した。