相手が大型車ならば狭い道に逃げ込む。

そんなセオリーは、どうやら錯乱者には通用しないらしい。

奴はどんな手段を講じてでも俺達二人を轢き殺すつもりだ。

「恭一…っ…もうダメっ、走れないよっ!」

ハルカが呼吸を荒くしながら言う。

既に彼女は脚を引き摺るようにして走っている。

「止まるな!頑張るんだハルカ!」

彼女が限界なのは分かっているが、休ませてやる訳にはいかない。

止まれば一瞬にして、俺達は肉塊に変えられてしまう。

あんなトレーラーに追突されたら確実に命はない。

立ち止まる訳にはいかないのだ。

…しかし俺もまた、限界が近づきつつあった。

ホテルの窓から飛び降りた時の打撲が痛む。

もう走り続けるのは無理だ。

足がもつれ。

「くっ!」

思わずガクリと膝をついてしまう。

「恭一っ…!」

つられるように俺の背中に倒れ込むハルカ。

トレーラーはもう背後にまで迫っている。

殺される…!