Dangerous city

どうやらこのホテルにいる錯乱者は、エレベーターで見かけた連中だけではなかったようだ。

もしかしたら俺達以外の宿泊客の多くも、錯乱者と化してしまっているのかもしれない。

「恭一…!」

ハルカが不安げな声を上げて、俺の手を握り返す。

「大丈夫だ」

不敵な笑みを浮かべて彼女を安心させるものの、状況を打開する手立ては何も浮かんでいなかった。

そもそも錯乱者達をどう扱っていいのかすらわからない。

犯罪者ならば、少々手荒な事をしても構わない。

興奮状態にあるだけの暴徒ならば行動不能にするだけに留め、必要以上の傷を負わせる訳にはいかない。

しかし、あの錯乱者達はどうなのか。

これまで俺が関わってきたどの案件にも、ああいうタイプはいなかった。

一般市民でも犯罪者でもない。

こちらから迂闊に手を出す訳にはいかない。