たいして覚えてないんじゃないかと花信刑事は思った。

これでは似顔絵も難しいだろう。

しかし天災警部は、フムフム呟きながらペンを動かしている。

「あ、そういえば」

おばさんは手をポンと打ち
「眉毛がかなり薄かったような気がしないでもないようなあるような、そんな感じで、ヤクザみたいだったんで、少し不安になったのよ」

(こっちも不安だわい)

と花信刑事は思った。

天災警部は相変わらず一心不乱に書いていたが

「できたー」

と、書いたページを破り、おばさんに

「どうでしょう」

と、渡した。

その似顔絵は 今の主婦の証言から作成したのだろうが、余りにも、下手すぎだ。

5歳の幼稚園児が「ぼくのパパ」と題して書いたような崩れた幼稚な、絵で、取りあえず、人の顔と解る程度の、下手くそな物であった。

しかも何故かバックには花ビラ、チリチリパーマの頭には角が生えている。

絵を覗きこんだ花信刑事は、呆れてしまった。

「なんスか、このミミズのはったくったような落書きは。それにこれ、オニじゃないスか」

しかし、その落書きを手にしたおばさんは

「うん、こんな感じよ」

なーんて言っちゃったから、さあ大変。

「こ、この男なんだな。よし、花信、署へ帰るぞ」

天災警部は急に動きが敏速になり、車に乗り込んだ。

(あの主婦も警部に、負けず劣らず、いい加減な奴)

花信刑事は小声で呟いた。