あなたの大切なもの

あたしは、驚きの顔で彼を見る。

「…何?」

あたしに気付いた彼は、聞く。

「え…それだけなんですか?」

「何が?」

「え…だって普通『危ないから帰り』とか言いません?」

「えー? だってしゃーないわな。 誰だってそんなこと、あるやろし。 俺かて、家出とか今までに何十回としとるしな、へへ」

「…………」

怖そうな外見とは裏腹に、笑うと幼く、可愛い顔になる彼。

「今からどっか行くん?」

タバコをふかしながら、横目であたしを見てくる彼。

「……どうしよかなて思て…」

「そっか! あ、名前は? 俺は工藤純。 結城中の3年やねん」

「結城中学1年…遠野百合」

一瞬、ためらった。
けど、この人には言ってもいいかなって思った。