流れ橋

田中くんが、言った。
「中学の卒業アルバムのこと?」わたしは、聞いた。

「あぁ。それだよ。俺の寄せ書き見て欲しいんだ。俺のちゃんと、見たことあるか?」田中くんは、少し自信なさそうな声で聞いてきた。

そういわれてみると、田中くんの寄せ書き、何て書かれてあったっけ。

わたしは、思い出せなかった。

たぶん、上田の寄せ書きを読んだ瞬間から、誰の物も読んでいない。

「たぶん、読んでないと思った。」がっかりした様子だ。

「ごめん。わたしにとって、卒業アルバムは、ツライものだったから、ずっと押し入れの中に封印してた。」わたしは、言った。

「何て、書いたの?今、教えて。」わたしは、言った。

自転車のペダルの音が聞こえてくる。

風がやんで静かな夜になった。遠くで、川の流れる音が聞こえてきた。もう少し行くと、流れ橋を通るところだ。

田中くんは、何もいわない。

わたしは、もう一度聞いた。