流れ橋

わたしは、彼に言った。

すると、道は、坂道にさしかかった。緩やかに下っている。田中くんは、ブレーキをかけながらゆっくり下っていく。「倉石のいうことは、気にするなよ。何もわかってないんだからさ。」唐突に田中くんは、いった。

「分かったよ。もう気にしない。あのさ、わたし、花火を見て、元気になれたよ。ありがとう。」
しばらく沈黙が流れた。田中くんは、何もいわない。

わたしは、そっと、涙をふいた。
すると、「礼なんて、いうなよな。花火見て、元気になれたんなら、本当によかったよ。嬉しい。」と田中くんがいった。

力強く、優しい声だった。わたしの心をずっと明るく照らしてくれる言葉だ。

「ありがとう。」わたしは、少し涙ぐみながらいった。

「泣き虫だな。」田中くんは、笑った。それから、自転車をゆっくりこぎだした。そして、「有川、お願いがあるんだけど。家に帰ってから卒業アルバムを見てくれないか？」