流れ橋

そして、拳を握るのをやめて深く深呼吸した。

「俺が、何したっていうんだよ。何だよ、大変なことって。」上田が、聞いた。

田中くんは、黙ったままでいる。まさか、こんな展開になるなんて、思ってなかったみたいだ。田中くんは、話していいものか、迷っているみたいだ。

「もう、やめて。」わたしは、言った。今更、上田に謝ってほしいわけでも、同情されたいわけでもなかった。
何だか、気分が悪い。わたしは、吐気がしていた。

みんなに、背を向けて自然と歩きだした。

「そうよ。」突然、後ろで、声がした。

倉石さんだった。「もう、やめたら。有川さんの為に、言い争うなんて。」

彼女に、視線が集中した。

わたしは、振り返り彼女をみた。遠い蜃気楼を見ているようで、倉石さんがゆらめて見えた。

「よく、花火大会に来れたね。そうでしょ、だって、この人のお父さん自殺未遂したって聞いたけど。何、考えているんだか。」