「そ、そんな事したって、怖く、ない、からなっ! それに、お前は母様を殺した……」

「見られてしまったか。息子は頼まれていないが、見られてしまったら念の為に殺せと言われた……」

 女の低い声が俺と母様の寝室に響く。その声に恐怖を感じる暇もなく、その女は俺に刃を向けた。そして俺が瞬きを返す間もなく、女は俺を目掛けて腕を振るう。

 俺は間一髪、刃を避ける事に成功した。だけど、避けた弾みで床へ落ちてしまった。床には黄色の絨毯が敷かれていたけど、凄く痛かった記憶がある。

「逃がしたか」

 女はそう言い、また再び俺を睨み付けた。茶色の瞳が、俺を捕らえて離さない。また俺を狙うのだろう。今度は逃がさない、そう言っている気がする。

 そして、女は再び刃を俺に向けた。ここから逃げ出す為のドアが近くにあるというのに、間に合いそうもない。

 母様を失った事に対する悲しさと、母様を殺した異種族に対する怒りと、俺を殺そうとする事に対しての恐怖の感情が入り混ざって、何が何だか分からなくなった時だった。