引越しの日当日。



母はもう無理だと諦めがついたのか何も言わなかった。


母に行って来ると伝え家を出る。県を出る前に祖母の病院へと向かった。


1時間もいられなかったけど祖母は浩人に何か買ってあげてくれと私に一万円札を握らせた。


別れを惜しみ何度も浩人を抱きしめ、私を抱きしめた後、佐藤さんと少し二人にしてくれと私は浩人を連れて病室を出た。


5分程で出てきた佐藤さんは待っていた私に「行こうか」と椅子に置いてあった私の鞄を手に取る。


病室から点滴を繋いだまま出てきた祖母はエレベーターの前まで見送ってくれた。



「頑張るのよ」



エレベーターが閉まるギリギリまで祖母は強く握り締めた私の手を放さなかった。


指先が離れエレベーターのドアが閉まり祖母が見えなくなった時。

本当に自分の選んだ道は正しかったのだろうかと思った。