父を攻めなかったのは、ただそれだけの理由ではない。本来なら、激しく父に母を病院に通わせてと言ったのかもしれない。


けれど、バイトを始めたことによって家にいる時間が大幅に減り、
バイト先に年上の友達ができ、休日には車で色んな所へ連れて行って貰っていた為、昔のように多大にストレスを感じなくなっていたからだ。




バイトを始めて3ヶ月が過ぎた頃。新人が数人入る事になっていた。


新人といっても相変わらず私は最年少だった。
けれど、その新人の中には一人だけ知っている人物がいた。


午前中の仕事を済ませ、夕方にまかないを一人で食べている時。

店長が私の後ろの席でパソコンを使って仕事をしていた。



「お疲れ様です」


「あ、おう。持ってきた?」


誰かが来たようだとはすぐにわかったが、特に振り返る事はしなかった。


「はい」


「じゃあ明日からよろしくな」


「よろしくお願いします」



背中の方から聞こえてくる声に軽く耳を傾けながら食事を口へ運んでいた。



「あっおいここ間違ってるぞ?」


「え?」


「あっくそ。俺ボールペン持ってないわ。さえこ、ボールペン持ってないか?」


店長に呼ばれて振り返った先には数ヶ月ぶりに見るその人の姿があった。