「じゃぁ今日帰ってくるんだな?」


「明日帰るよ」


これから母と顔を合わせるには、気持ちの整理をする時間が足りないと拒んだ。


「おまえ今どこにいるんだ?あの男の家か?」


「そうだよ。色々転々としてた…。ちなみにあの人、ただの友達だから。」


煙草を取り出し火をつけた後、父は煙と共に大きなため息をはく。


「じゃあ明日帰ってくるんだぞ?約束したからな?」


「うん」


「それから…お母さんには帰ってすぐ謝りなさい」


「は?なんで?逆でしょ?私…」

「文句を言われる前に言うんだ。そうしないとまたおまえ、出て行きたくなるだろ」



久しぶりに会った父は変わったんだと思った。

自分の味方をしてくれていると思った。


それは、漸く母の異常ではない部分に気付いたからか、私の事を少なくとも心配してくれていたからかもしれないと、この時は正気で思っていた。


父が本当は心配などしていなかった事や、
母の事など全く考えていなかった事に
この時は気づけなかった。


父にとって私や母や兄弟、家族は
利用価値のあるアクセサリーと同じだっただなんて思いもしなかった。



ほんの一ミクロくらいはそこに愛があると思っていた。




でもなかったんだ。



私達に対する愛は一欠けらも。



ただそこにあったのは自己だけを見つめる醜い愛だったと気づくのはまだまだ先の事。