「…はい」
淳は父に返事をしてハンドルを握ったまま軽くお辞儀した。
「行かなくていいからね」
「でも…」
淳が私と父が言った言葉に板挟みされ困っている事はわかっていた。
しかし、ここで父の言いなりになればまたあの日々に戻るのだと思うと堪えられなかったのだ。
「帰った方がいいよ。俺が家の下で待ってるからとりあえず話だけして戻っておいで?」
だけど淳に何度か言われるうちにある考えが過ぎり私は帰る事を決めた。
ここでこのまま逃げれば今以上淳に迷惑をかけてしまう。そんな事はできない。
父の言う話など
どうせ一方的に言われて終わりだろうと思うだけで胸糞が悪かった。
走らせる車の外の景色が懐かしいものへと移り行く中で、自分がどのような顔をしていたのかはわからない。
ただ、家に着くまで淳が一言も話し掛けてこなかった事が、その表情を物語らせてくれる。


