「なんか嫌な偶然」


「うん」


「でも…丁度いいじゃん。俊だって、忘れたいんでしょ?」



「いや忘れたいけど」

「私も忘れたいもん」


放された腕をまた肩にまわす。


「いいでしょ?忘れようよ、一緒に」


俊がついたため息はその先がない事を知らせる物ではなく、
俊自身が自分の中にある見えない想いにけじめをつけるものだった。



体を起こし半ば強引に重ねた唇を首元に流していく俊を愛おしく思おうとした。


でも、そんな事が安易にできるわけもなく
忘れたいと思いながらもずっとけんちゃんを想い浮かべていた。


俊の腕に抱かれながら
こんな事で忘れられるわけがないとわかっていても、

寂しさや、苦しみをほんの一秒でも忘れられるならそれでいいと思った。



居場所のなかった私は
抱かれるその一瞬だけにできた居場所にどこか安心していた。