ADULT CHILDREN

狭いベッドで向き合っているだけで鮮明に聞こえてくる息遣いに、全く緊張しなかったと言えば嘘になる。


「私、今日好きな人と別れたんだ」


それをごまかすかのように話かけた。


「それで泣いてたの?」


「うん」


沈黙が続く事を恐れたのも、話を聞いて欲しかったのも、両方が真実だった。



「忘れたいって思ってもさ、なかなか忘れられないから苦しくなっちゃって。…どうやったら忘れられると思う?」



「んー…やっぱりそれは時間が解決する他ないんじゃない?」


「それ以外。早く忘れたいもん」


「じゃぁ新しい恋とか?好きな人できたりしたら忘れられるんじゃない?」


それが本当だとしたなら
今すぐ恋に堕ちて忘れてしまいたいと思った。




「…じゃあ忘れさせてよ」



「え?俺が?」



「うん」



一目惚れしたわけでも
俊を好きになったわけでもない。


「え?なんで?」




ただ、忘れたいから。



けんちゃんの顔を
もうこれ以上思い浮かべたくなかったから。



忘れる事ができるなら



その手立てに迷う必要などなかった。




俊の耳元に手を伸ばし
掴める程の襟足に触れ
見つめ合う時間も与えずに唇を塞いだ。