「着いたよ」


コンクリート張りの9階建マンションは、けんちゃんのマンションとは比較の対象にも及ばない程古びていた。


俊の後に着いてエレベーターに乗り903号室の前で俊は鍵を取り出す。


玄関のドアを開けてすぐにある小さなキッチンに使用感はなく、乾ききったシンクには缶ビールの空き缶が幾つも放置されていた。


部屋の奥にある十二畳程のフローリング張りの殺風景な部屋のテーブルには灰皿と教科書。


「学生なの?」


その教科書を手に取りパラパラと顔の前でめくった。


「うん。大学行ってるよ」


「へぇー…すごいじゃん」


「何もすごくないよ。私立だし。誰でも行けるよ。あ、そこらへん適当座って」


適当にと言われても座る場所は床とベッドの二つしかなく、私は必然的にベッドに身を置いた。