「家に帰れないなら、今日はどこに行くの?」


俊が口を開いたのは長い沈黙の後。



「…どこに行こうかな」


「行く場所決まってないの?」


「行くとこないから」



助けて欲しいなんて言っているつもりはなかった。
自分の発した台詞が、相手にどんな風に捉えられるかなんて、そんな考えを起こす余裕もなかった。



「じゃあ俺ん家来る?」


だから、俊がそう言った時は歪んだ考えしか浮かばなかった。


「明日夕方バイトだからそれまでしか無理だけど…」


黙って俊を見つめる私に俊はまるで慌てて言い訳をするように言葉を繋ぐ。


よかった。
今日は行き場ができた。
なんて思わなかった。


一見真面目そうで、女に軽々しく手を出すような感じのない男がそう言った事によって
結局男は理性には敵わない生き物なのだと教えられただけだ。



「行く」



そう答えた先にどんな事があるのかは充分わかっていた上での返事だった。