「私、代わろうか?」


不慣れな手つきで紗枝の顔に脱脂綿を当てるけんちゃんの背中に声をかける。


けど



「もう終わるから大丈夫」



ただ自分が邪魔者だと改めて確認させられたようだった。


久しぶりに見た紗枝の顔は今まで見た事がない程酷い状態だった。

目の上は青黒く、目の下の頬骨の辺りには刃物で切り付けられたような切り傷があった。
鼻血も出ていて、紗枝は放心状態のようにぼーっとしていた。



「紗枝、大丈夫?」


反応薄く、紗枝は首の力が抜けたかのようにこくんと頭を落とす。


消毒を終えた後、けんちゃんはもうひとつの部屋へと紗枝を連れて向かった。


それからしばらく
二人は部屋から出て来なかった。


けんちゃんが出てくるまでの時間はとてつもなく長く感じた。


何もないとわかっていても、不安で不安で
一人でリビングをうろうろと落ち着きなく歩き回っていた。