マンションの前にけんちゃんの姿を見つけ、近寄ろうとしたけど
すぐに足を留めた。


けんちゃんは
ひとりじゃなかった。


華奢な体をしっかりと抱きしめていた。


紗枝を


抱きしめていた。



私を包んでくれる大きな手で紗枝の長い髪を包むように覆って。


とても悲しそうな顔で。


紗枝を見て浮気ではないとすぐにわかった。


制服のスカートの下から出る細い足には
遠くからでも見える程の痣。

乱れた制服。

泣いている顔。




私は
二人の前に出て行く事ができかった。


躊躇う必要などないはずなのに。


それなのに
二人の元へ行かなかったのは

気づいてしまったから。



紗枝を抱きしめる強さも


紗枝を見つめる瞳も



私とは違う。




私はあんなに強く抱きしめられた事も



あんなに愛おしむ目で見つめられた事もない。






――――――まだ


好きなんだ―――――――――





けんちゃんの想いに

気づいてしまったから。