誰もいない静かなエントランス。


ホールのような場所にあるベンチに座った。


飛び出してきたおかげでスカートのボタンは外れ、シャツは裏返しに着ていた。



その手に何もない事が

自分がすべてを失った事を知らせる。


荷物も
お金も
家族も
居場所も


何もかも――――



一人で泣いていた。


響くから
声を漏らさないように。
誰にも
気付かれないように。





でも


気付かれてしまった。






「さえこちゃん?」




涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げると


そこにはけんちゃんが立っている。



「どうした!?大丈夫!?」


けんちゃんの顔を見て、何かが切れたように涙がぼろぼろと溢れた。




本当は
気付いて欲しかった。


誰かに縋りたかった。


助けて欲しかった。



それがその時の

私の本心だったから。