「包丁返してもらえる?」


母は部屋に入り床に落ちた包丁を拾って出ていく。



その日の夜は食事をとる気にはなれず一日中部屋に篭りっきりだった。



夜中になると寂しさや不安が溢れて苦しくなる。


必死に涙を堪えた。

何も考えないように本を読んだりラジオを聞いたりした。


だけど、気づいた時には寂しいと思っていて
とにかくその想いを消したかった私は友達に電話しようと電話を持った。



するとタイミングよく電話が鳴り、少しコウからかもと期待して通話ボタンを押し受話器を耳に当てる。



でも、電話の相手は予想もしなかった人。

初めて付き合った彼だった。


「何?」


二度と関わりたくないと思っていた人からの電話に冷たく返した。

ましてやこんな気分の時に。
声も聞きたくないと受話器を置こうとした時。



「今、菜月と愛美と一緒にいるんだ。ちょっと待ってね!」


「は?」


菜月とは小学校が一緒だったけどクラスが別で軽く話す程度の中。

愛美は学校でも目立つ金髪のヤンキーグループにいた女の子で話した事もなかった。



「もしもしさえちゃん?」


電話に出たのは菜月だった。


「あ、うん。どうしたの?」


「今暇?」