野球部の奴らと購買でパンを買って食べてから、部活に向かう。

うちの学校は一応進学校だから、今日から三年生は受験のため引退だった。
二年生の新しい主将を中心に、新しいレギュラーが決まる。
一年生からも何人かレギュラーに抜擢されるメンバーも多く、僕も一応ギリギリで控えの選手に選ばれた。

7月の東東京大会でも、ピンチヒッターで一打席だけ出場させてもらえて、イチローのような内安打を決める事が出来た。
僕は小柄だから、パワーで押し切るようなホームランは普通の試合ではなかなか出せない。
とにかく得点につながるヒットを飛ばすことを目標にしている。

守備ではやっぱりキャッチャーがやりたかったけれども、二年生のベテランの先輩を差し置いてそこまでの役割は回ってこなかった。


まだまだ暑い昼下がり、準備運動を終えてからいつもの相方の大里とキャッチボールをはじめた。

「なあレン、お前アイドルになって野球部辞めるってホントかよ。」

控えのピッチャーのこいつは、速くて力強い球を投げてくるから、キャッチするにもコツがいる。
そんな言葉と一緒にしっかりと受け取りながら、「そんなわけねーだろ」と答えて球を返した。


「だってよ、クラスの女子がみんな噂してたぜ。何とかってアイドルと一緒に写真撮られてたって。」

大里の投げるスライダーをいつものようにしっかり受け取ると、もう一度そのままボールを返す。

「あれはたまたまだからね、僕には野球が一番だもん。」


そう、なんだかんだ言って、僕は野球をしている時が一番好きなんだ。
音楽を聴くよりも、もしかしたらカオリさんといる時よりもかもしれない・・・

ただ、このまま一生懸命続けていきたいとは思いはするけれど、プロになるのは難しいだろうなとぼんやりと考えていた。


「そっか、それならいいけどよ。俺もお前がいないとなんていうか、他の奴とバッテリー組んでもしっくり来ないしな。」



大里がそんな風に言ってくれるのは、とても嬉しい。

そうだ、このままずっとがんばって、せめて高校生の間は2人でレギュラーをつかんで、甲子園の舞台に行くんだと、目の前にある目標をひたすらがんばるしかないんだとわかっていた。