野音のライブの次の日、みんなが家に泊まっていった後、僕は自主練しようとジャージに着替えていつものバッティングセンターに行くことにした。

エイジは、女子達の準備に待ってられないらしく、僕と一緒にうちを出る。

「一応接客業だし、昨日の服じゃまずいから、着替えたいしな。」

そんなことを言いながら、二人で久しぶりに歩く。

夏休みに入ってからは、会ってなかったからな。



「なんか、モモと仲良くやってるみたいで、ちょっと安心したよ。」

「レンもな。でもカオリン、全然想像してたのと違うんで、ちょっとひいたわ。」

エイジは楽しそうに笑ってそういう。

なんかいつのまにか、なれなれしく彼女のこと呼んでるんですけど昨日から・・・
僕だってそんな風に呼べないってのに。


「なにどんなの想像してたのさ。」

「もっと大人なおねーさんなんだと思ってたけど、あれはなんだ、キッズって感じだな。顔は可愛いのに・・・」


クラスでは、あんまり他の女子と絡んでないから気付かなかったけど、エイジって女の子と話すときは結構フランクなんだなって初めて気付いた気がする。

そういえばモモのときもそうだったな・・・いきなり呼び捨ててたもんな。




最寄り駅の改札まで来ると、知り合いにばったり会った。

「あれ、レンじゃん、久しぶりだね。」

「ああ、秋山じゃん、最近うちに来ないよね。」


それは中学のクラスメイトで、モモのファンだった男子だ。

チラッとエイジの方を見ると、久しぶりですね。なんてちょっと敬語であいさつしてるので知り合いだったっけってきくと、モモの学校の前で会った事があるって言う。

目黒駅まで行くって言うから、一緒にいこうよってなんとなく誘ってみた。


「モモちゃん元気?」

エイジのことを気にしながら、控えめに聞いてくるので、元気だよってって答えた。


「なんか、急に髪切っちゃったから、ビト君と別れたのかねってみんな気にしてたんだよ。」



そういえば、エイジと付き合う前は、いつも秋山とかがモモをうちまで送ってきてくれたんだよな。

僕が学校遠くなって部活もあったから、一緒に帰れなかったしね。


「いつもありがとね、モモのこと気にかけてくれて。」

きっとモモだって、おかげで助かってたはずだから。



「ビトとは別れて、今はエイジと付き合ってるよ。」

僕の高校の同級生なんだって教えてあげると、ああやっぱりってちょっと嬉しそうだった。


「たまにね見かけてたんだよ、二人で帰ってるの。今までと違って、モモちゃんすごく楽しそうにしててから、きっと彼氏なんだろうなってすぐわかったよ。」


エイジはずっと黙って、僕達の話を聞いてくれていた。

「モモちゃんはさ、いつもこんな僕達にも気を使ってくれてさ、ほらみんなあんな感じだからまともに女子と話せないじゃん。でも、ずっと笑顔でいてくれてさ、ビト君と付き合ってて辛いこといっぱいあったのに、全然そんなそぶりを見せないんだよ。」


だからみんなで、守ってあげようねって決めてたんだって教えてくれた。



「そうなんだ・・・」


エイジはやけに真剣に相槌を打つ。

こういう話、モモから聞いてなかったのかな。


「彼強そうだから、きっともう僕たちいなくても大丈夫だよね、よかったよ。」

そんな風に言われて、エイジも少し照れていた。


「俺、そんなに強かねえよ・・・」


「見た目は怖そうだからね。」

そう冗談で言うと、うるせーって小突かれた。



エイジはほんとに優しいって、僕も知ってる。
きっと、モモはもっとよくわかってるんだろうな・・・


「モモはこんなに色んな人に愛されて、幸せ者だな。」


僕がそんな風につぶやくと、それはちょっと違うよって言われる。


「モモちゃんがね、僕達に幸せをくれたんだよ。
だからさ、絶対幸せになってもらわなくちゃ困るんだ・・・」


秋山は、飛び切りの笑顔でそういいきった。



「なんだか、ビトと同じこというんだな。」


「なに?エイジもビトと最近会ったりしてたの?」


そうきくと、たまに店にくるんだよって教えてくれた。



「あんまり自信ないけどさ、自分なりにちゃんとモモのことは考えてるからな。
あーでもなんか、ビトにしろかずなりさんにしろ、プレッシャーがスゲーわ。」

そんな風に笑って言うけど、うちのお父さんにも色々言われてんだな・・・


「まあでもさ、まだ付き合い始めたばっかりなんだし、色々考えすぎてると嫌になっちゃうよ。」


僕は、カオリさんと、もっと気軽に付き合ってる感じだからなあ・・・まあ色々あるっちゃあるけども。



「レンはいつものんきだなあ。」


そういってエイジは、僕の頭をなでまわした。