「私ね、ずっと普通の恋がしたかった…

ビトがNYから帰ってくれば、それがかなうと思っていたのに、帰ってきたとたんアイドル事務所に入っちゃってさ。

ただでさえ遠い存在だったのに、どんどん遠くに行っちゃう。

ずっとそばにいるよって、約束してくれたくせに…」



俺は、コーヒーを飲みながら、じっとモモの話を聞いていた。

きっとこいつは、付き合う前からこうなることを分かっていたんだろ。

だからこそ、ビトから言われる前に、自分から切り出したのかな?





「なんだか、うまくいかないもんだな…」




俺は、そんな経験なかったから、純粋に二人がうらやましかった。

好きな人に好きだといってもらえることって、やっぱり幸せなことなんじゃないかなって。





両思いなのにそばにいちゃいけないのと、

片思いだけどそばにいられるのとは、





どっちのほうが辛いんだろう?




ふと、リンダの事を思い出して、やるせなくなる。











「そういえばさ、エイジ君の好きな人って、どんな人なの?」



話をすり替えるように、モモはまた作り笑いをしながら聞いてくる。




「レンから聞いたのかよ?」

さっきモモが言った台詞を、俺も繰り返していた。



ちゅーか薄々感づいてたけど、アイツ口が軽すぎだよな…

モモはレンから、どこまで聞いてんだろ?

それともまた、モモのただの直感なのか?


こいつの鋭さは、前にビトの事をきいたときに怖いほど理解してる。




「なんとなく、カマかけて聞いたらぽろっと教えてくれた。
あ、詳しいことは聞いてないよ。」




そんなこと聞いて、どうすんだよ?

俺たちはきっと特殊なんだから、絶対参考にならないと思うけど。





「言いたくない。教えねーよ。」





それだけいうと、モモは「変なこと聞いちゃってごめんね。」なんて言いながら、またあのファンの男たちに向けるようなアイドルスマイルを浮かべ、紅茶を一口飲んだ。