俺って実は、まともに彼女がいて付き合ったことないんだった。

なんだかモモといると、不思議な感覚がする。






追加で頼んだ杏仁豆腐が一つテーブルに置かれた。

俺は一口だけもらうと、モモは嬉しそうにまたゆっくりと食べ始めていた。


甘くて冷たいその感触が口いっぱいに広がると、
こういう感覚もまんざらじゃないなって思う。





ああきっと、俺はモモが好きだ。





リンダの事を忘れられるわけないのに、新しいそんな感覚が芽生えて、やっと新しい一歩が踏み出せるのかもしれないなんて、ぼんやりと考えていた。



そう思うと、胸元に残るリンダの記憶がやけに切なくて、無意識にカットソーを首まで伸ばして、すべて隠してしまいたい衝動に駆られる。

もうバレバレだってわかってるけど。






店を出る頃になると、携帯のメールの着信に気がついて、慌てて内容をチェックした。

それは、さっきまでショーに出ていたモモの彼氏からで、内容を確認しないままモモの様子を伺うと、そっちにもメールがいっていたのか、携帯を開くとすぐ溜息をついて閉じてしまった。



「ビトからメールきてたんじゃねーの?」

もう遅い時間だったので、モモを自宅まで送ろうと、俺は自分の自宅と反対方面の山手線にモモと一緒に乗っていた。

「返事ださねーの?心配してるんじゃね?」

モモはまた、思いつめたような顔をして俯いている。


自分にきたメールの内容も確認すると、”今日はきてくれてありがとう"みたいな事だけシンプルに書いてあるだけだった。

余計なことを書いてなくても、モモに手を出すなって言われてるようで、ちょっと心が痛い。

俺は、返事を出すほどの内容じゃないかなって思って、そのままモモの返事を待っていると、もう遅いからいいんだって投げやりに言った。



「なんか、もう疲れちゃったな・・・」


それは、今日一日のめまぐるしい事件があったからなのか、それとも今までのビトとモモの関係のことなのか、きっと両方なんじゃないかなんて思って、そっかと言ってそれ以上突っ込めなかった。