「すぐ飯を用意させる。」
いてもたってもいられなくなった女は、ツカツカと部屋を出て行った。
その後ろにメイドがつく。メイドであろう、きっと。高貴な人間なのだから。
バタン
扉がしまると、タケルはまた横たわった。
頭を使おうとすると、村の事ばかりが浮かぶ。いちいちみんな笑っているのだ。腹がたったり、嫌になった事もあったはずなのに、村での幸せな生活の事ばかりが次々と頭に浮かんでは消えた。
「クロス…俺たちどうしたらいいんだよ…。」
まだ眠りからさめないクロスの横顔を見つめた。
クロスは強い人間ではない。寂しがり屋だし、甘えん坊な性格である。クロスはきっと現実を受け入れることができないであろう。頭がおかしくなってしまうんじゃないか?もしかしたらこのまま、ずっと夢の中にいた方がいいんじゃないか?
タケルはどうしたらよいか答えのでない苦しみに耐えて涙をこぼした。
ふと、つないだ手をギュッと握られた。
「それでも生きなきゃダメなんだよ。」
クロスは目を覚ましていた。声を殺してなくタケルの手をギュッとにぎり、すうっと体を起こした。
「やっぱり夢じゃないんだね。」
クロスは当たりを見渡し、見知らぬ風景につぶやいた。
「どうやって生きてくんだよ!何もないんだぞ!」
タケルはちょっと噛みつくように言った。
「許せないじゃない。村をあんな風にしたあの男が!」
クロスは、タケルをキッと睨みつける。いつもおっとりしているクロスからは想像できない言葉だった。タケルはうろたえた。
「お姉ちゃんだって探さなきゃいけないし、こんな事してる場合じゃないのよ!」
クロスは何やら焦っているのか。叫ぶ。当たり散らす。
やはりクロスも正常ではない。
「リングさんいなかったのか!?」
タケルは驚いた。あの時は長の事で頭がいっぱいで他の事に余裕などなかったため、今やっとそれを認識したのだ。
「家にもどこにもいなかったの。村を捨てるなんて事絶対ないと思うんだけど…逃げろて言われたから逃げたのか…もしかしたら…。」
クロスは波のように起伏が激しい。落ちたり上がったり。自分でも止められない。
「リングさんが…。」
タケルはクロスの中に一筋の光、希望がある事に気がついた。
「話、聞いてみるか。」タケルも少し落ちついてきた。