タケルは目を丸くした。
目の前に飛び込んできた、高貴な女の顔が想像していた高貴さと違ったからだ。
タケルが思う高貴な女→清楚。可憐。礼儀正しく美しい。
目の前にいる高貴な身分だと思われる女→ギャル。口悪い。セクシー系。
そうなのだ。いわゆるギャルメイクの女がそこにいたのだ。髪は金髪でショートボブ、耳は穴だらけで、ピアスがゆらゆら揺れている。メイクは濃い。まあ似合っていて、綺麗な顔をしているがドレスを着ていて、いわゆる姫らしい人。眼力が強くて、一度あったらそらせない眼。背中には羽が生えている。あのとき見た天使のような人は、この人か!?
タケルの頭の中が一瞬真っ白になり、何を聞こうとしたのかすら抜けてしまった。そして一気に頭の中をどうしようという言葉で埋め尽くす。
「やはり、どこか痛いのか?」
女は心配そうに顔を近づけた。
タケルは、口をパクパクとさせ、何かを言わなきゃと焦った。
「あの…ここは…?」
やっと声がでた。
「ここは、我が国ウィンダムだ。安心するといい。お前達の傷は何も心配いらないそうだ。」
女は、タケルから目をそらし、窓の方に歩き、外を眺めた。
傷は心配いらない。
そんな訳がない事を女はわかっていた。体の傷はたしかに大した事はない。
心の傷だ。
あの村の人間である事はあの時の様子からわかる。村の悲惨さを見れば、どこかに急襲された事もわかる。近くに大事だたったであろう人間が壮絶な死を遂げていた。
問題がない訳がない。
自分で口に出してしまった言葉に後悔した。些細な一言が人を傷つける事がある。
タケルは自分の体を見た。手当てがしてある。知らない間に火傷や傷を追っていたようだ。それどころではなかったから気づかなかった。
しばらく沈黙する。
口を開いたのはタケルの方だった。
「助けてくれて…ありがとうございます。」
だんだんと声が小さくなり、最後の方は聞き取れないくらい小さな声だった。タケルはうつむく。
どうでもよかった。親子は生きてくれといっていたが、あんなに大切なもの達を失ってどうやって生きていけと言うのだ。住む家もない、食べる物もない、あの村がない…考えれば考えるほど、すべてがどうでもよく思えた。