そして思い出した。
(そうだ…。この笑顔だ。この笑顔を見た時、俺はこの人と一緒に行きたい…と思ったんだ。)
また涙が溢れる。
「親父…死ぬなよ…。俺だって幸せだったんだよ…もう逝くのかよ…はええよ…まだ何もくれたもの返せてねえのに…。」
タケルはうつむき、泣きながらつぶやいた。
クロスも涙が止まらない。顔をそむけ、声を出しながら泣いた。
「馬鹿か…だから言ってるじゃ…ねえか…生きてくれ。…お前が生きてる事が…俺の…」
ガクッ。
「…親父…?」
小さな声でタケルは呼んだ。イグレはガクッと頭を倒し、ビクともしなくなった。
「親父ーっ!」
イグレは死んだ。しかしその顔は火傷があれでも、とても幸せそうであった。こんな辛い死に方なのに、イグレの心は苦しんでいなかった。
二人は泣いた。まわりの炎と止まらない涙で水分が、どんどん失われていく。頭がぼーっとする。もう何もかもどうでもいい。イグレは死んだ。村の者たちも死んでいた。姉だけは見つからない。
二人はどうでもよくなっていた。
イグレの体はどんどん冷たくなっていく。それと同時にタケルの心も冷たくなっていくようだった。
「生きている者はいないかー!?」
どこからともなく声が聞こえてきた。しかし、二人の耳の右から左に流れてしまい、二人とも何も反応しなかった。
カシャカシャと何かをつけた重い足音が近づいてくる。
「いました!生存者です!」
ぼーっとした頭でそちらの方を向くと、何やら羽がはえた天使の姿が見えたような気がした。もう目も霞んでいる。
「迎えがきたのか…?」
タケルはつぶやいた。
「しっかりしろ!お前達!」
女の声が聞こえる。
しかし、二人は同時に地面に倒れこんだ。
意識を失ったようだ。
村に放たれた炎は、すべてを燃えつくそうと轟々と燃え盛っていた。
イグレの作り上げた家族達の村がこの世から、家族達と共に姿を消した。