男が1人、森を歩いていた。

昼飯時。

真上に輝く太陽が木漏れ日として煌めき、かさかさと小動物の動く音、囀る鳥の声。

木々の葉の青さと爽やかな陽気が、今が初夏であることを告げている。



男の歳は20代前半程だろうか。

淡い金髪の小さなポニーテールが男の歩調に合わせて揺れ、淡い蒼の隻眼が気持ち良さそうに細められ、葉の間から覗く快晴を見上げる。

右目は黒いアイパッチで覆われ、頬まで伸びる傷がアイパッチの下に隠し切れずにある。

その顔の傷を含めても、口許に浮かべた笑みが男に『好青年』といった印象を与える。

灰色のマントの背中の形の歪みから、男が剣士であることが伺える。



「ったく……本当にブツなんだろうな、此処にあんのは」

男が急に顔を顰め、ぼそっと呟いた。

「この雰囲気、“魔”ってより“聖”じゃねぇか、おもっクソ……くだらねぇモンしか無かったらこの辺り一帯焼き払うからな」

『好青年』とは形容し難い口調と内容を紡ぎ、男は溜息をつく。



男は魔剣を探して旅をしていた。

特に当てがある訳でもなく、片っ端から『特別な剣がある』と噂される地域を周っているだけだ。



そしてこの森もまた、そんな噂を持っていた。