「あれ~、悠がいない。どこ行っちゃったのよ。」

はあ、とため息をつくあたしに誰かが近づいて来るのが、自分でも分かった。

「跡部・・・菜緒。」

あたしは、振り向くのをやめた。

声からして、それが男だということは理解できた。

しかし、その男はあたしのことを知っていた。

あたしは、振り向くのが急に怖くなった。

「・・・・」

あたしは、無言のままだった。

「跡部 菜緒。俺に見覚えがあるか。」

・・・え?

見覚え?

なんで。どうして。

もしかして、あたしはこの人に会ったことがあるの。

初対面じゃないの?

知り合い?

いとこ?はとこ?親戚?

あたしは、どんなに考えてもその男の声には聞き覚えがなかった。

でも、なぜか懐かしくて
でも、なにか壊してしまいそうで。

あたしは、途中で曖昧であるが、この人には前に会ったことがあるのだと確信した。

放課後の廊下。

誰もいない長い道。

そこに、一人の男の声だけが響きわたる。

「・・・ぁ・・・なた。もしかして、あたしのこと・・・。」

少し震えていた
あたしの声。

あたしは、怯え構えで後ろに振り向いた。

そこにいたのは、

「え・・・」

あたしは、思いもよれぬ出来事に声を失った。

そこにいたのは、

不二。

悠の中学時代、初試合で戦った相手。