自分が誰か、わからない
気付いたら、ここにいた
ここに立っていた


立って、桜を見ていたのだ

一人で・・・・・違う


一人じゃない。誰かと・・・



「私は、いったい誰なの?」



私の言葉に、応える声はない


桜の花びらしか、落ちてこなかった





「と、黄昏てる場合じゃない」
いつまでも、ヒラヒラ落ちてくる桜を見てても、しょうがないし。
私は気合いを入れると、辺りを見渡した。
何があるか、確認する為だ。
どうやらここは、どこかの家の庭らしいが・・・・・・ここが自分の家の庭なのか。それとも、他人様の家の庭なのか。
ああ、判断に困る。
「そして、もっと判断に困るのが、この家に入っていいのかどうか」
目の前に、ボロ・・・いや、昔風の伝統ありそうな、お屋敷が。
「ぶっちゃけ、オバケ屋敷だよ」
なんと言うか。
もう、入りたくないよ。自分の家でも・・・
よしっ、見なかった事にしよう!
「こーゆー場合は、アレだ。正義の鏡、庶民の味方、警察を頼るべし!!」
未成年だし、記憶喪失だし、保護ぐらいはしてくれるはず。
私はセーラー服のスカートを翻すと、正門に向かって歩き出した。
なんて無駄に広い庭だろう。
このずっと続く塀を辿れば、正門に着くだろうか?
「うーん。広い庭でも、手入れされてないから、荒れ果ててるなー・・・草ボーボーじゃん」
荒れ放題な庭を横目で見ながら、正門の前に立ち止まる。
「ん?閉まってる」
今が何時かわからないが、太陽が上にあるから、朝か昼ぐらいだと思う。
しかし、昼は開けておくはずの表門は、堅く閉ざされていた。
門に手を当てて、力を込めて押してみる。
「っ!」
開かない。
チクショー、開けよ。
渾身の力を込めて、もう一丁!
ギシギシ軋む音はするのに、門は開かない。