所が実は、おけつは犯人が誰だか、まだ解ってなかったのである。

殺害トリックは完璧に解けた。

しかし、この殺人事件に、残っている全ての人物を当て嵌めても、その誰もに、矛盾が残る。

結局、誰が犯人だか、全然わからなかった。

とは言え、適当に指名することも出来ない。

おけつの影響力は凄いのだから、警察は名指しされた人間を犯人と決め付けて、疑わないだろう。

それはマズい。

ここは本当のことを言おう。

そして、謝ろう。

初めての、おけつの汚点になるが、しかたがない。

「おけつさん」
「おけつ君」

皆が血走った目でおけつに詰め寄る。

(おけつおけつうるさいなー。人の気もしらないで〜)

なんて思いながら、しかし、額に汗をにじませながらおけつは頭を下げ

「実は、犯人はわからないんです」

と言ったすぐ、一人の男が

「ホッ、助かった」
と呟いた。

それをおけつは、みのがさなかった。

「ホッと一安心した、高野田智雄ー。おまえが連続殺人の犯人だあ」

おけつが智雄を指さして叫んだ。

「し、しまったあ。つい」

と、またこれ、余計なことを言ってしまった。

皆はア然。

ふと、我にかえった丸越警部は

「お、おいタイホだ」

と叫ぶと、数人の警官が入ってきて、智雄を連行して行った。

「いやあ、おけつ君、さすがだねえ」

警部が拍手しながら寄って来た。

「今回は、そーゆーパターンで犯人を指摘したわけだね。なかなかの演出家だ」

警部はご機嫌だ。

「は、はあ」

おけつは、なんとか助かった。

あんな、緻密な殺害計画をたてた犯人は、実は、わりとアホだった。

おけつの汚点は、無くなった。